───俺には今、大きな悩みがある。
「なぁなぁ、タク。お前の幼馴染、今日は来ないのかよ?」
「あ、知ってる何ちゃんだっけ?超美人なんだよな!!」
「妃那(ひな)ちゃんだよ。俺前名前呼んでもらったもんねー」
「は?てめぇいつの間に!!俺まだ手振ってもらっただけだぞ!!」
「それ言うなら俺なんて視線合ったこともねぇんだぞ!!」
ぎゃぁぎゃぁと(不幸)自慢を始めたクラスメート達にため息一つ。
こいつら、あの女をアイドルかなんかと勘違いしてるんじゃないか?とさえ思う。
正直あまり言いたくないんだが、仕方がない。
俺は頬杖をついてそんな様子を冷ややかに一瞥、そして「おい」と声を掛けた。
「───妃那ならいるはずだぞ。校門に」
「「「「「「なんだと!!」」」」」」
途端、校門の見える窓にかじりつくヤロー共。
(ついでに、話に参加してなかったやつまで交じっていく、悲しき男子校の性。)
俺もしょうがなく人の隙間からちらりと校門を見下ろした。
校門に立つのは一人の少女。
柔らかそうな色素の薄い長い髪を優雅に片手で梳かしながら、
風になびく短いスカートを押さえている。
少女はふ、とこちらを向くと少しばかり驚いたように目を見開き、
それから恥ずかしそうに頬を染めて視線を逸らし、
もう一度こちらを上目に見ると、
花咲くようににっこりと笑って手を振った。
清純そうな一連の流れと、芸能人顔負けの整った笑顔。
(それを見て悶える男達・・・)