なぜ、あんなオジサンがモテるのか……いや、これは部下のヨイショに違いない。
しかし、たしかに今、父は『部長』と呼ばれた。
そんなに偉い人だったんだ。
私は外での父を何も知らないことに気がついた。
乾杯のあと、しばらくは楽しそうな笑い声が聞こえていたが、だんだん話は仕事の本題へと移っていったらしい。
重なっていた声がひとつずつになり、みんなが代わるがわる主張をして討論している。
仕事の内容に関しては、子供の私にはいっさい分からない。
ただ、誰よりも父が熱く語っているのは分かったし、周りの人たちも頻繁に父に賛同する声をあげていた。
悔しいけれど、少しだけ父のことが格好よく思えてしまった。
そうだ。
母を亡くしたという事実は、父も同じだったんだ。
支えてほしいときに、いるべきはずの人がいない寂しさをなんとかひとりで消化して、父も今まで生きてきたんだ。
どうにもならないときもあっただろう。
それなのに父は、仲間の信頼を得るほどの仕事をこなしながら、私を育ててくれた。
屁理屈ばかりで可愛くなくて、しまいには口すらきかなくなったこんな娘を、父は見離さずにいてくれたんだ。
それなのに私は、この有り様。
急に自分が恥ずかしくなった。
謝らなければならない、と強く思った。
今までひどい態度をとってごめんなさい、そして、ありがとう。
素直に伝えなければならないと思った。