「今夜、同僚達を家に呼んで、ちょっと会議をすることになったんだ。
たぶん七時ごろになると思う。
それまでに少しでいいから部屋を片しておいてくれないか」
やけに明るく、今まで何もなかったみたいにしゃべると思ったら、これですか。
他人を家にあげる?
部屋を片せ?
ふざけるな。
「おい、聞いてるのか?」
聞いてるよ。
聞いてるけど返事なんてするもんか。
しばらく沈黙が続いたあと、受話器の向こうから大きく短い不快なため息が聞こえてきた。
生ぬるい息がかかりそうで、私は反射的に受話器を耳から遠ざけた。
「いいな、頼んだぞ」
切れた。
出だしの明るさが嘘だったかのように、最後の一言は冷たくとげとげしかった。
ご機嫌とって都合のいいように利用しようたって、そうはいかない。
絶対何もしてやらないんだから。
居間を見渡す。
だいたい、片す必要なんてないじゃないか。
ここに人がいる時間なんて、一日にどれくらいあるだろう。
使われていないのだから、散らかることなどあるわけないのだ。
ただ、このキテレツなカーテンのせいで雑然と見えるだけ。……