くしくも、カナエ達が捕まっていたのは、あの『運命の分かれ道』だった。


何を言っているのか詳しくは聞き取れないが、話題の輪郭、なにやら争っていることは分かる。


五十嵐先生の太く厳しい声と、カナエ達のかんしゃくを起こしたような甲高い声が、

校舎の壁に交互にぶつかり反響してうわんうわんと渦巻き、伝わる振動が窓を小刻みに揺らす。


アリィはというと、窓と同じくらい小さく震えていた。


なぜ、アンタがそこまでこの出来事に親身になる必要があるんだ。


また違和感がうずく。




とたん、飛び交っていた声色が変わり、教室中が色めき立った。


「痛ぇよ、放せこのヤロウ!」




少し目を離していた隙に、事態は急変していた。


五十嵐先生がカナエの髪の毛をわしづかみにして、どこかへ引っぱって行こうとしている。


たぶん、体育教官室か職員室にでも連れて行くつもりなのだろう。


カナエは必死に抵抗しようとしているが、頭を揺さぶられて思うように動けていない。


そんなカナエを助けようと、ミオとノアが五十嵐先生の腕を引っぱったり背中を殴ったりしているが、

体格のいい体育教師にはまったく効果がないようだ。


「ひどいよ、あれはやり過ぎだって」


背中から女子の泣きそうな声が聞こえてきた。


たしかに、私もそう思う。


でも、それを止めさせる術も勇気も、私達にはない。


あまりの出来事に、体が震えてきた。


権力に逆らうと、こうなるのだ。