私達は携帯電話を持っていないから、こんな場所ではぐれてしまえば絶望的だ。
でもこの歳で迷子センターにお世話になるわけにはいかない。
押し合いへし合いおばさんの波をくぐり抜けて追いかけて行くと、人がまばらな場所に出た。
そこでアリィは突っ立って、一点をじっと見つめていた。
その視線の先には。
「……メロン」
美しい網目模様をまとった淡い緑色の球体が、ふわふわの台座に威風堂々と鎮座している。
その脇に添えられた値札を見て、なるほどこの辺りに人が寄りつかない理由をおおいに理解した。
この値段じゃあ、庶民はそうそう手を出せない。
しかし、アリィはその高級メロンから目を離そうとしない。
よほどメロンが好きなんだろうか。
奇遇じゃないか。
私もメロンは大好きだ。
このときの私は、ちょっとおかしかったのかもしれない。
この指はまっすぐにメロンを指差し、口からはためらいなく言葉がするりとこぼれた。
「これ、ください」