グリーンハイツ
桜の木に囲まれたこのアパートに越してきたのはちょうど去年の春で、
高校を卒業してすぐの事だった。
新しい生活がスタートして、
きっと何かがかわるって信じてたあの頃。
でも現実は正直なのです。
「とものバカぁ!!!」
凄まじい平手打ちの音と共に響き渡る彼女の声。
「ともにとってあたしって何?」
「なにって…」
「結局、遊びだったわけ?」
厚塗りの顔をゆがませて彼に詰め寄る彼女…
「うん、ごめんね」
「バカ!!サイテー!!!」
再び炸裂する彼女の平手打ち…
そんな彼女は何人目ですか?
毎回連れ込む女の子が違う軽い男、
それが私の真下に住む住人。
103号室
嶋 朋弥 シマ トモミ
私の天敵
「他に何人女がいるの?」
「遊びなんて嘘なんでしょ」
「あたし別れないし」
尚も詰め寄る彼女。
ちょっとコンビニ行って帰る予定が完全にタイミングを逃してしまっていた。
桜の木の影に隠れて様子を伺う私。
今日は毎週楽しみにしてるアニメの日なのに…。
頼む、帰ってくれ!!
なんて願いもむなしく、
更に熱を帯びる彼女。
そうこうしてる間に15分もの時間が流れる。
ヤバイよー…ビデオセットしてないし…どうしよう。
そう、私は桜前線04というアニメを欠かさずチェックし、
ビデオも完璧にとる言わば
ファンの鏡なのだ。
でも今日は…今日は!!
一人オロオロしていると、
されるがままだった彼がふいに声をあげた。
「おぅっ光じゃん!!」
「うっえっ?」
突然の事に変な声がでる
つくづくカッコ悪い私。
ズカズカと遠慮なしにこっちへ向かってくる彼に
なすすべもなく立ち尽くしていると、
不意に手首を捕まれた。
「えっなっなに」
更に挙動不審になる私は情けない声と共に
彼の腕の中へ吸い込まれる。
「ってゆーことだから帰ってくんない?」
容赦ない彼の一言。
「信じられない!!そんなブス」
言葉が胸に突き刺さった。
彼に抱きすくめられてるから見えないけど
きっと彼女は私を睨み付けている事だろう。