ここには決まった人しかいない。
医者と看護師と患者さん。
私はその患者さんの一人。


石川湊(いしかわみなと)
小さい頃から心臓病で入院してる。
生まれたころから…かな。
中学3年だけど、学校に通ったことはない。
院内学級もあるけど行ったことない。
人と話すのは嫌い。
というか人が嫌い。
みんなウザいから。


「湊ちゃん?入るよー」
ガラッ
「あれ?湊ちゃんは??」
検温にきた看護師が同じ部屋のチビっ子に聞いた。
「湊ちゃんトイレ行ったまま帰ってこないよー」
「えぇ!?またかぁ…」

看護師はため息をつきながらいつもの場所に向かう。


そう。

あたしがいるいつもの場所へ。


「湊ちゃん!!また検温サボって…」
「あっバレたか」
しれっというあたし。
毎日おんなじ所にいるからバレてるのは分かってんだけどね。
「検温までは外出禁止って言ってるでしょ?」
「トイレ前休憩だもん」
「まったく…行くよ?」
「…はーい」

ここは屋上。
あたしのお気に入りの場所。
だってここには色があるから。
青い空とコンクリートの黒。
ただそれだけでもなんか嬉しくなる。
だから好き。

そうそう。
さっきあたしを迎えに来たのは鈴原さん。
30…何歳かの看護師さん。
あたしが病院に入院した時からいるんだってさ。
だからあたしのお世話はほどんど鈴原さんがやってくれてる。
けっこう好きなんだよね。鈴原さん。

「体調はどう?」
この質問に対してあたしはいつもこう答える。
「超悪い」
つくづくひねくれてるな…あたしも。
だけど鈴原さんもひねくれてるよ―で、
「ならよかった」
って言う。
こんな鈴原さんの性格結構好き。
堅苦しくもないし、無駄に優しくもない。
あたしと鈴原さんの間に流れてるこの心地よい空間があたしは何より好きなんだ。
チビ達が待ってる病室よりも…何倍も。