「タケル!また来たよ!」

バタンと、玄関の扉を思い切り開ける。
すると、タケルは女性といた。

ここは、タケルの独り暮らしのアパートだ。
確かに、タケルがいて、タケルの部屋だ。

「………」

ヤバイ。
彼女かな?

冷や汗が流れ落ちぬ前に、くるり、と方向転換し、一目瞭然に逃げようとした。
が、タケルの声が止める。

「カオ!!誤解。」

「……?」

「カオ。彼女は僕の、従姉だよ。」

そう言われ、改めて女性を見る。
ストレートの長い髪に、白い肌をした線の細いひと。顔は、そう言われてみれば似てる…気がする。

「サク、と言います。よろしくお願いします。」

にっこり笑われ、手を差し伸べられる。

「あ…カオです。よろしくです。」

自分も手を出し、握手した。
そうしたら、思いっきり力を入れられた。
痛くて、パッと顔を見ると口は笑ってるのに、目は全然笑ってなかった。

―タケルが好きなんだなぁ

なんて、他人事のように感じた。

全身全霊で、大好きだと言っているようなサクの嫉妬は、可愛らしいものに思える。思わず、クスリと笑うと、今度は睨まれた。

「カオ、どうした?何か用事か?」

ふと、タケルに話かけられ、タケルと向き合う。

「別に、用事ないよ。先客がいるから、私帰るよ。」

特に何も思わず、そう笑顔で返し、部屋をあとにする。

バイバイ、と手をふり、アパートを出た辺りで後ろから声がした。
振り返ると、タケルがいた。

「カオ。送っていくよ。」

そう申し出るタケルに、否、と首をふる。

「サクさんといなよ?私は、本当にいいから。」

嫉妬でもなく、本心から言っているのが分かったのか、タケルは少し残念そうに頷いた。

「じゃあ…。でも、気をつけてな?最近、通り魔が出てるみたいだから…」

「通り魔?何それ?」

聞いたことない、と好奇心から尋ねてみる。

「それが、外傷もなく人が殺されているみたいなんだ。医者も原因不明で困ってるみたい。」

実は、大学病院で看護師をしているタケルが、こっそりと教えてくれた。

「………そう。外傷がなく…。」

なんだか、嫌な予感を覚えながら、タケルに礼を言って別れた。