バターン、と大きな音がした。
玄関からのようだけど、誰が来たのだろう。

部屋から、顔を出してみるとリヒトさんの怒鳴り声が聞こえた。

「帰りなさい!!ここは、貴女が来るべきところではない!!」

それから、何か言い争っているようだけど、よく聞こえない。

しばらくして、静かになった。
ソッと二階の吹き抜けから、玄関を見てみる。
玄関と呼ぶには、やや広すぎる場所に、リヒトさんは何やら持ってきて、おもむろに撒き散らしていた。

四角い容器に入ったそれを、何回か握っては撒き散らし…を繰り返し、気がすんだのか、その場を離れた。

リヒトさんのいなくなった玄関へ降りていき、撒き散らしたものをしゃがんで、見てみる。

白い粉のような…。

「…塩?」

なんで、塩?と思いながら、外をのぞいてみる。
もう、とっくにいなくなったであろう、来客が気になった。

けれど、案の定いなくて。

ふと。
足元に目をやると、玄関ポーチの真ん中に、手紙が置いてあった。

何だろう、と手に取ってみる。

真っ白な便箋に、綺麗な文字が綴られていた。

『カオお姉さま。
会って、お話がしとおございます。今晩0時に月見が丘で待っております。
      シェルより』

ピシッと、体が固まるのが分かる。
シェルが、来ていた…。

何のためかなんて、分かりきったこと。
避けては通れない道ならば、行くしかないのかもしれない。


―運命を変える勇気も力もないのなら……