すっと片方の膝をつくと会場の客がしんっと静まった。
下唇を強く噛み締めキツく目を瞑る。

両膝ついて、両手を付こうとした時――…




〈立て。〉

静かだけど威厳のある、マイクを通した渡辺くんの声が聞こえた。
会場につきかけていた両手をパッと握って会場の一番後ろを見た。


『渡辺君…!!』

なぜかボロボロの服で渡辺くんがマイクを持って客席の真ん中を歩いてきていた。

「〈春野は何も悪くないだろう。
悪くないと思っているのに頭を下げる必要はない。〉」

渡辺くんが正論を述べる。
私は自分の行動を恥じた。
…情けない。
一瞬でもあんな奴等に跪いたのだ。


するとAとBが異様に慌てだし、座っていた椅子からガタガタと音を立てて勢い良く立ち上がった。