「あらぁ、今日は随分と賑やかなのね」

 廊下から教室を覗き込んで、智恵子が言う。

 いつも二人で食べているのに、男が二人も陣取っていたのだから、それは驚くだろう。

「色男に囲まれちゃって、どこのハリウッド女優かと思っちゃったわ」

 香里が迷惑がっているのを知っていて、笑うのだから智恵子も人が悪かった。

 香里だって、鈴や揚羽と食べるのが嫌なわけではない。

 だが、仲の悪い二人に挟まれて食事をしたいと思う人間が、世の中にどれほどいるだろう。

「ちょっと、席空けてくれる?」

 鈴と香里の間に割り込むようにして、智恵子は誰かの椅子を拝借して座った。

 未だ男二人の間には険悪なムードが漂っているのに、彼女はさっさと弁当の包みを広げ始める。

 強者だなぁ、と智恵子の利発そうな横顔を、香里は憧憬の眼差しで眺めた。