昼休みになると、揚羽が一緒に食べようと机を寄せてきた。
すると鈴も、揚羽の席へ、ぶつけるように机を押す。
「悪いな。香里はいつも、俺と昼飯食ってるんだ」
嘘である。
鈴は大概、男友達と学食へ行くし、香里はいつも、智恵子とお弁当を囲んでいる。
「ふぅん、じゃあ、その習慣も今日で終わりだね」
耳が聞こえなかったなら、その微笑みは心の癒しとなっただろう。
何だか、無茶苦茶な吹き替えのドラマを見てるみたい、と香里はぼんやり思った。
「みんなで食べたら良いじゃない」
争う必要性が分からない、と溜め息を吐く。
二人の喧嘩に一々、引き合いにだされては堪らない、と香里は思っていた。
まさか、本当に香里のことで競り合っているなどとは、思いも寄らなかったのだ。