「変なこと言うんだね。それじゃあ、僕が、ここのものじゃないみたい」

 そう言ってるんだよ、と心の中だけで毒づく。

 今の鈴目には、これ以上、この魔性と向き合う強さはなかった。 

「そんな風に見えるなんて、心外だなー」

 揚羽はそう言って、自分の指先、身体、つま先までを見回す。

 それらが何の問題もない形であるのを確認するかのようだった。

「僕って、どこか変かなぁ」

 全く納得がいかないという口振りである。その仕草が無邪気に見えるのが、鈴には我慢ならなく感じられた。

 まあ、いいや、と思考を放っぽりだして、揚羽は踵を返す。

「僕、帰る。香里によろしくね、弟くん」

 可愛らしく手を振って、さっさと歩き出す少年の背を多郎は呆然と見つめた。

「鈴さん、アレは何者ですか」

 揚羽は、自分の見た目は、どこか変かと尋ねたが、多郎は彼の異常性を外見ではない場所に見出していた。

 胃を、空腹中枢を、刺激するような匂いをさせていたのである。