夢なら、夢でいい。夢が、いい。夢なんだろう。

 たっぷりと休んで、体が本調子になれば、日常に戻れるんだろう。

 香里は、そう思いたかったから、そう信じた。

「そういえば、さっきも夢をみていた気がする」

 どんな夢、と逆光で、すっかり影の塊になった多郎が問う。

 泣いている夢、と答えようとして、また心配させてしまうかと思いとどまった。

「……さあ、覚えていないの」

 実際、泣いていたこと以外、ほとんど覚えていない。

 ただ悲しくて、恋しくて泣いていた。

 具合が悪いと、変な夢を見る。

 
 何とはなしに庭を眺めていると、廊下をどたどたと駆けてくる音がした。