「父子揃って物わかりが悪い。出来る出来ないではない、すべきじゃないと言っているんだ」

 鈴は彼の言葉が理解できずに、続く言葉を待つ。

 だって、アンタは花が開けば、香里は虫に喰い散らかされると言ったのじゃないか。

 今日だって、香里は開きかけた花に引っ張られるようにして、異界へ迷い込んで。

 それを、すべきじゃないって……なじるような質問を吐きそうになっては、とどまる。

 機嫌を損ねるのが恐かった。

「御霊を括っていたことで、体と魂が分離しかけている。今回は連れ戻せたが、完全に御霊だけ向こうへ行ってしまえばどうなっていたか……」

 起こりえた可能性に、鈴目は背筋が寒くなる。

 怯える香里を前に、結局のところ何も出来なかった歯がゆさが込み上げてきた。

「これ以上、括るのは危険だ。分かっていたことだろう、花は開かせるほかない」

 十日と待たずに、ひらくだろう。

 その朝蜘の耳打ちは、鈴目の耳に災い告げる言として響いていた。