あの日から、変わらず朝蜘は、鈴目にとって畏れの対象で在り続ける。

 畏れであり、嫌悪であり、時には憧憬、憎悪として存在し続ける。

「十年前だって、アンタは香里を助けてくれただろう」

 乾いた喉から、やっとのことで声を絞ると、社会科資料室の埃っぽい空気が鼻に抜けた。

 今の鈴目には、七つのときの、あの出来事が香里を守ってきたのだと分かる。

 あのとき、香里のつぼみを括った糸が綻び始めているのなら……

「また、括り直せとでも言うのか?」

 鈴目に、父を見下していたのと同じ眼差しが向けられていた。

「出来ない訳はないだろう」

 幼心に感じていた逃げ出したい衝動が、じりじりと胸を焦がす。

 それを押し殺して、鈴は二本の足を踏ん張る。

 逃げ出すわけにはいかなかった。