保健室のベッドの硬いシーツの感触を肌で感じながら、香里は世界を確かめていた。

 何の変哲もない学校の姿に、どこか納得がいかない気もして、何度も確かめる。

 あれは夢だったのかな、あの深い深い森は。


「……ねぇ、鈴には見えなかったんだよね、森」

 ベッドの脇に置いたパイプ椅子に、鈴目は深刻な顔で座っていた。

 ああ、と返ってきた小さな声に香里は、やっぱりと思う反面、失望する。

 あの木も、花々も、香里の目には、紛れもない現実の光景だったから、見えないと言われても折り合いがつかない。

「俺の目には、香里が授業中に突然立ち上がって、鞄につまずいて転んで……たように見えた」

 鞄に、つまずいた?

 足元を見ても何もなかったのに。

『今、君の御霊はそちらへ行っているが、体はこちらにある』