「……先生」

 香里は震える指先を握り締めて、歩き出そうとしている背中に呼び掛ける。

 どうした、と朝蜘は普段の授業のときのように振り返った。

「あの、先生が言ってた御霊って、」

「私が? 何か言ったか」

 訝しげに眉を寄せられれば、気の弱い香里には何も言えなくなって黙り込む。

 確かに言った筈なのに。

 いや、どの出来事が確かなことなのだろう。

 分からない。

 とにかく今は、家に帰りたいと香里の痺れた脳は考えていた。