そう尋ねる声は、普段より丸みをもっている。

内心の動揺を隠しきれず、ぎこちない動作で振り返ると、多郎は眠たげに目をこすっていた。

(何だ、感づいた訳じゃなくて、寝ぼけてるのか)

 香里は、そっと胸を撫で下ろす。

そうと分かったら、どうにか誤魔化して、寝床に戻ってもらわなくてはならない。

「ん、別に? 朝風呂にでも入ろうかなって。まだ早いから多郎ちゃんは寝てたら?」

 香里は、自分でも若干、気味が悪いと思う猫撫で声を出して、多郎に近づいた。

薄闇の中で大きな影の塊になっていた多郎も、距離を縮めれば表情が分かる。