結衣の考えは奏にも伝わったのだろう。
奏はまた一つ溜息をついた。

「そう…わかったわ。夢にいる理由ね?…ただの迷子よ。」

「迷子…?」

「そう。今までの話が嘘だって知ってショックを受けて、夢に落ちたら帰れなくなったの。」

奏は表情も変えずに淡々と答えた。


「違うでしょ?本当の理由を教えて。」

「……。本当よ。」

結衣の言葉に今度は少しだけ顔を曇らせた。
それはほんの一瞬の変化だったが結衣はそれを逃さなかった。

「嘘。本当に迷子なら、奏空が迎えに来た時に一緒に帰れば良かったはずでしょ?本当の理由を教えて。」

「…………。」

奏は結衣を見据えた。


少しの沈黙の後、奏は今度こそ観念したように今までで一番大きな溜息をついた。

「最初は本当に迷子だったんだから。」

そう呟きながら、奏は結衣から一瞬目を反らした。

そしてまた顔を上げ、結衣を見て笑顔を見せた。
その笑顔は奏空にとても似ていた。

「わかった。一緒に着いてきて。」

奏に案内されるまま、結衣はさらに深い夢の中へ入って行った。