「沙恵?…大丈夫?」
後ろからひょっこり顔を出した真里に、苦笑いを見せる。

「大丈夫だよ…?」
そう言ったけど、頭の中はパニック寸前…

だって、ここにいるはずない。
あれは別人だ。


けっして泰智お兄ちゃんじゃない…―――








『俺さぁ、来年になったらこのマンション出てく』
いつもの様に、あたしに晩ご飯を作ってくれた。
それを黙々と食べてた。

喉を通らない…


『泰智お兄ちゃん、行っちゃうの…?』
幼いあたしは、素直に感情を表に出す。

泰智お兄ちゃんは、困ってた。
『んな顔すんなよ。』

そうだよ。もっと困って…
それで、ずっと一緒にいて…?

『あたし…1人になるのヤダ』
その頃の両親は、仕事三昧で朝早くから夜遅くまで帰って来ない。
だから、こうして同じマンションに住んでる泰智お兄ちゃんに来てもらってた。

『1人、こわい…』
ホントは1人になる事も慣れてる。
でも、どうしても引き止めたくて嘘をついた。

あたしは悪い子だ。


『…沙恵……』

迷って…
ここにいて…


あたしは泰智お兄ちゃんの袖を握った――