桜の花びらの隙間から見える少女に、私はどきりとした。

4月8日、今日は我が校の入学式だ。
あぁ、1年前は私もあの中に居たんだなぁ、などと初々しい少女達を私は遠巻きに見ていた。
そして、その少女を見たのだ。

風が一陣、吹き抜けた。

有終の美を飾る桜を容赦なく散らしていく。
その花びらの隙間に、白い肌の少女が見えた。
風に色素の薄い髪が弄ばれて、扇のように広がる。
背後からの風に、髪を直しながら彼女が振り向いた。

その顔立ちは人形のように整っていた。
そして一瞬、桜の精と、メルヘンな言葉が通りすぎるほど、彼女は儚げだった。

散り遅れた桜がゆっくりと視界を舞う。
その絵画のような、そして夢想のような情景に目が離せなかった。

そして、少女と視線が合った。

彼女は驚いたような表情を浮かべ、それからぺこりとこちらに礼をしてから立ち去る。
その後ろ姿を惜しむように私はずっと追っていた。

「どうかしたの、遙?」
「え、あ……」

いつの間にか、隣に友人の姫花が居た。
私は今見たもののことを話そうかと口を開き、けれど閉じた。
なんだか、話すのがもったいなかった。

「なんでもない。入学式行こう」
「……うん」
「ほら」

腑に落ちないという顔をする姫花を促して。
私たちはそこを後にした。