啓は近寄って腕を掴むなり、捻り上げた。
捻られた人は声を発しながらうずくまり、啓に首の後ろを打たれた。
そしたら気を失い、ガクリと首が垂れた。
啓はそれを見下ろしている。
「……」
「け、警察!!呼ばないと!」
体がこわばって声がてない私に対して、聡くんは慌てて走っていった。
こんなに怒った啓見たの
いつ以来やっけ…?
あ…あん時や
小さい頃、地元の悪ガキに頭ぶたれて泣いて帰った日…
啓、黙って家からいなくなって、お兄ちゃんたちと探しに行って、公園でやっと見つけたと思ったら
啓が自分より一回り体が大きい私を殴った相手に向かって、暴言吐きながら殴る蹴るで散々暴れまわってて
結局、悪ガキを泣かせたからって
啓がその子の家に謝りに行ったんだっけ…。
啓が帰ってくるのを、勝手に啓の部屋に入って待ってて…
帰ってきた啓は、怒られたから元気がなくて
「私、うれしかったよ。ありがとう。」
って笑って言ったとたんに
何も喋らなかった口が歪んで
涙目になったんだっけ。
最後まで強がりだったけど。
あれ…何歳の頃だっけ…?
「美緒…」
名前を呼ばれて、弾かれたように現実に引き戻される。
遠くからパトカーが近づいてくる音がする。
さっきから時間が止まったみたいにフリーズしていた私。
「啓…」
「はっ…涙目やん。ケガ…してへん?」
急に心の奥がじんわりと温かくなる。
「…ぅっ…え…」
やっと感じた安心感。
子供みたいな鳴き声が口から漏れた。