「……なんで悠太は」


考えていたことが、思わず口をつく。


「どうして高校でサッカーの強豪に行かなかったの?」


これは完全に八つ当たり。
同じ高校に進学していなければ、今更こんな思いしなかったのに。

ずっと一緒だと思っていたから、余計に裏切られた気分だった。

悠太の表情が少しだけ優しくなる。


「“地元の仲間達と国立に行くこと”が夢だったから。だからどんな強豪校に行っても意味がなかったんだよ」


「夢だったって……過去形なんだね」


自分でもぞっとするくらい、冷たい声が出た。
こんな言い方がしたい訳じゃないのに。最悪だ。


「1年目で県大会までいけたのは、めちゃくちゃ嬉しかった。でも……」


言葉を切ると、悠太は俯く志津を覗き込んだ。


「志津、国立で試合するってどれだけ凄いことか知ってる?」


「知ってるよ。県大会で優勝しなきゃ国立に行けないことぐらい」


悠太がかぶりを振った。


「それじゃあ国立で試合は出来ない」


「え?」


「県大会を勝ち抜いて、全国大会でベスト4になって、初めて国立競技場に行けるんだ」


「それは……」


知らなかった。
全国大会に行っても更に勝ち進まなきゃならないなんて。


「そんな夢の大舞台、サッカーやってれば誰だって憧れるでしょ!俺も今までは国立に行くことだけ考えて練習してきた。そこがゴールだって思ってたから」


多分、陸もそう思っている。国立が最終目標だって。

でもそれは逆に言うと、部活を引退するまでの期間限定の夢なんだ。
悠太が真っ直ぐ前を見据える。


「でも今は違う。その先を見たくなった」


顔を上げた志津と悠太の視線がぶつる。


「プロになりたい」


聞きたくなかった。
そんな台詞は聞きたくなかったったのに。