「成長するには、今が一番良い時期なんです。こんな所に居てはもったいないです」


スーツのおじさんが、熱っぽく語ったが、私は「こんな所って……」とその言葉に少しムッとした。


「向こうでは地元のクラブチームに所属してもらうことになりますが、選手から指導者から全てが一流です。悠太君にとっては良い刺激になる筈です。だからこそ」


眼鏡のおじさんは咳払いをして畳み掛けるように言った。




「是非ロンドンへ留学して頂きたい」





――留……学……?


ごとん、と鈍く低い音が床を叩いた。

一瞬手の力が抜けて持っていた電球を落としてしまったのだ。


「なんだ?」


音に気が付き居間にいた全員が一斉にドアを見る。

私は完全にフリーズしていた。

頭が熱くてぼぉっとする。


居間のドアが勢いよく開くと悠太が顔を出した。
目が合うと、悠太の目が丸くなった。


「志津……!」


嘘だ。

悠太の言葉の続きも、落とした電球も無視して、家から飛び出した。

凍り付いていた鼓動がどんどん早くなる。


今のは嘘だ。聞き間違いだ……。


悠太が……ロンドンなんて行くはずがない……。
行くわけがない!


必死に自分に言い聞かせていた。