そうだ、親戚が来てるんだった。恐らくこの声の男が、ベンツの持ち主なんだろう。


「いますぐに結論を、とは言いませんから」


誰も喋らない、妙な沈黙が流れる。

何の話か全く分からないけれど、深刻な話だということぐらいは判る。

どう楽観的に見ても、私が電球を持って入っていける空気じゃない。


うわ、めんどくさい時に来ちゃったなぁ。と、手に持った電球を見つめた。


とりあえず置いていくか。


そぉっと靴を脱ぐと、台所に足を踏み入れた。

テーブルの上に置いておけば、おばちゃんも気が付くだろう。

そろそろとつま先立ちでテーブルに向かうと、ドアの僅かな隙間から居間の様子が見えた。


「前向きに検討してみてください」


黒いスーツに眼鏡をかけた、40代前半くらいのおじさんが頭を下げた。


――見たことのない人。



「そうですよ、悪い話じゃないんだから」


おじさんの左側で頷いたのは、志津達の通う高校の校長だ。
隙間からそっと覗くと、反対側にはサッカー部の顧問もいる。


どうして。何で先生たちがここに。


「でも……」


長い沈黙を破って、悠太のおじちゃんの戸惑った声が聞こえてくる。


「いきなりそんな事を言われても……なぁ?」


「え? えぇ……言葉の問題もありますし……」


突然話を振られたおばちゃんも相当困惑している様子だ。

何の話だろう。

私はドアに張り付くようにして、耳をすました。


「言葉の問題は大丈夫だよ。すぐ慣れる」


悠太の声だ。おじちゃんやおばちゃんとは対象的に、声が明るい。

状況が掴めなくて、頭の中が『?』でいっぱいになる。