「そういえば、最近森先生が、やたらお前の話するんだ。悠太を見習えーって。今日も言ってたよな」


陸が強引に話を切り替えた。


明らかに不自然だったけれど。
それでも、こんな空気よりはずっとマシだった。


「言ってた言ってた」


「まぁ、俺らが受験勉強をちゃんとやらねぇからなんだけどな」


「あんた寝てるだけだもんね」


良かった、空気が変わった。
ほっと胸を撫で下ろす。


悠太は「えー」と、こめかみのあたりを掻いて照れていた。


「俺、別に何もしてないけど……」


「いや、そこは謙遜しなくていいんじゃない?私なら会う人会う人に自慢して歩くよ」


悠太が自慢するキャラじゃないことは百も承知だ。

でも、それでも! あの試合のことは自慢するべきだ。
陸が腕を組んで深く頷く。


「この前の試合見て、先生、かーなーり感動してたからなぁ」


「そうっ!! U-18の試合のゴール!! すごかったよねぇっ!!」


思い出すと、いまでも心が踊りだす。


「悠太んちのおじちゃん、涙流して喜んでたよね」


「えっ、親父泣いてたの!?」


悠太が半分笑った様な困った顔をした。照れてる時の顔だ。

本当は嬉しいくせに、悠太は自分の感情を隠すところがある。
その顔を見ていると思わず口元が緩む。


「そうだよ、町中皆で高校の体育館に集まって、スクリーンで中継見てたんだよ!」


「うわー、恥ずかしいな。やめろよ、それ」


「志津なんか、鼻水垂らして泣いてんだぜ。ゆうたぁああ、って」


「ちょっと、やめてよっ! だいたい私泣いてないからっ」


あの時、必死で泣くのを堪えたのに。人の気も知らないで!

陸の横腹を思いっきり殴る。


「痛ってー!!」


陸って本当にデリカシーが無い。

殴られた横腹をさすりながら、陸が「ぐーで殴るか? 普通」とぶつぶつ文句を言う。