嫌な夢を見た。

真っ白な天井についたいくつかの染み、薬品のいやな匂い。

手首に感じる閉塞感と、中途半端に遮られた視界が恐怖感を膨張させていくような、気持ち悪い感覚。

少し動くだけでギシギシと軋むベッドに仰向けに寝かせられ、僕は近づく足音に耳を澄ます。


コツ、コツ、コツと革靴を硬い床に打ち付けるような足音がどんどん迫ってくる。

僕は全神経をこれでもかと言わんばかりに集中させた。

コツ、コツ、コツ……

どんどん大きくなる足音。

やがて、この部屋と廊下を繋げる扉がガチャンと音を立てて開いた。

そこにいたのは、白衣を着た、顔が真っ黒な、人の形をとった生物。両手で大きな袋を抱えている。

まず、僕が思ったことは

まずい、逃げなきゃ。

と、同時に

コイツは危険だ。


黒い奴は革靴をコツコツ鳴らし、ズルズルと重たそうに袋を引き摺り、こちらに近づいてくる。


「う……ああ……」


そんな声が漏れる。


逃げなきゃ。
逃げなきゃ、逃げなきゃ……


黒い奴はやがて僕の側にまで近づき、袋を逆さに構える。そして――




袋の、中身が、僕の上に





――――





「葵っ!」


「………………!、小女」


目が覚めると、小女が腹の上に乗っかっていた。


「おはよー」

「おはよ……いま何時」


「んーと、8時58分だね」


「あと2分で始まんじゃん……」


「悪いのは葵の低血圧だよ」



『ミナサン、オハヨウゴザイマス。タダイマヨリ――』


外から機械的な音声放送が聞こえると、小女は俺の腹の上から移動し、窓を開けた。




『――国家特別法令01号"massacre"ヲ開始シマス――』





……なんてこった。

最悪の朝を、俺はパジャマ姿で迎えた。