――それから、ふたりは他愛ない会話をした。
クラスのこと、寮での事件のこと、思い出話。
最近知晄がハマっているミュージシャンのことを熱く語られ、葵もこの前絡まれた不良を締めてやった武勇伝なんかを語ってやった。
途中で小女の名前を出すと知晄はまた楽しそうな顔をしておちょくるようにしてくる。
自然と笑みが零れる。ふたりの笑い声が夕空に響き渡る。
やがて、赤く染まりつつあった空は真っ赤に浸かり、やがて辺りは夜の帳に包まれた。
しばらくして「それじゃあ、また」と、軽く手を上げて去って行く知晄に、葵は右手を挙げて応える。
ヘッドホンを耳に当てたその後ろ姿を少しばかり見つめ、やがて目を逸らした。
夜空にぽっかりと浮かぶ月を見上げて「ふう」とため息をつくと、ポケットから携帯を取出し、小女作のワンセグボタンに触れる。
アンテナを立てて、画面を見ると、この前とは違うアナウンサーが明日のmassacreについてのニュースを読み上げていた。
内容は、教室で委員長が話していたものと同じ。いや、むしろ委員長の情報のほうが事細かに説明されていて分かりやすかった。
「帰ろう」
ワンセグ画面を終了すると、すぐさま携帯を閉じて、葵は立ち上がりその場を後にした。
明日は遂に運命の日。
長い長い1日が始まろうとしている。