「で?」
知晄は葵の隣に座って首を傾げ、
「大丈夫か?」
と、続けた。
葵は頭に疑問符を浮かべ、知晄の顔を見る。
「なにが?」
「なんか死にそうな顔してっけど」
「たった今、どっかのヘッドホンバカに殺されそうになってたところだからな」
「え!誰々?」
「……」
「痛っ!いてて、やめろって!」
葵は知晄のツマサキを無言でグリグリと踏み付けた。
[調子のいいマイペースな奴]
これは葵が知晄に対する印象。
少し馬鹿にした風もあるが、反面、小さな憧れでもあった。
やがて、知晄は「ごめん、ごめん」と手を合わせて謝り、葵に話すでもなく、独り言のように呟く。
「あー、明日かー……」
気持ちのいい午後の空は、いつの間にか赤く染まりつつあり、人通りもぽつり、ぽつりと次第に増えていく。
行き交う人の中には大人はひとりもいなかったが、そこに違和感は感じられなかった。
「明日からオマエどーすんの?」
ふいに、知晄が問う。
葵はさらっと答えた。
「小女と一緒にいるよ」
「ふーん、そっかー」
「オマエはどーすんの?」
「ん?オレは……まあ、ひとりでブラブラして……」
「じゃあ……」
俺たちと一緒に、と言いかけて口を紡ぐ。知晄は人に誘われてどうとかいう奴ではない。
一緒に行動したいのならそう言うだろうし、言わないのならひとりでいたいのだろう。
「そういえば小女ちゃんの姿が見当たらないけど?」
知晄はニヤニヤと楽しそうな表情を浮かべる。
「寮に帰った。委員長と」
ひりでいるといつもこうだ。
俺と小女はセットで考えられているらしく、道行く知り合は絶対にこう訊ねてくる。
しかも、知晄はそれを分かって聞いてくるのでタチが悪い。
「へえ、委員長と。めずらしいね、小女ちゃんがあお以外になつくなんて」
「動物みたいにいうなよ。なんか最近仲良いんだよ、あいつら」