それから、クラスメイトと明日のことについて少し話したあと、葵は放課後になる前に校舎を後にした。


委員長のように準備をするわけでもなく、小女のように意味もなくひっついて行くでもなく、意味がないということすらなく、俺は寮までの道をわざと遠回りでふらふと歩く。


ふと、空を見上げてみる。
鳥は飛んでいなかった。
確か、この学園都市全体には鳥や虫が嫌がる、人間には感じ取れないほどの微弱な電波が流れていると小等部の時に習ったのを思い出す。


「そういえば……鳥なんて資料でしか見たことねーなぁ……」


鳥ってほんとに飛ぶのかな。
誰に伝えるでもなく、心の中で小さくつぶやく。


「《外》へ出たら……本物の鳥、見れっかな……」


このmassacreで、どさくさに紛れてこの都市から出られたら……なんて夢物語を想像したりして。


――と、あくびを一つした次の瞬間――


「お前。"最強"の柏木だな?」


後頭部にひやり、と冷たい感覚がした。まるで、拳銃でも突き付けられているかのように――


あぁ、またか。
葵はウンザリとした表情を相手に悟られないように浮かべ、気だるい口調で言った。



「そうだけど。……撃ちたいなら撃てよ」


「……」


相手は、喋らない。


「………………ふ」

「…………?」


「くくくくっ……はは……あははははははははは!!」


――この声は――



葵は、今日一番のウンザリ声で言った。



「……知晄だな」


「はは、当たり」



そこに居たのは、掃木 知晄<ハキギ・チアキ>だった。