それから、時が経つのはびっくりするくらい早かった。
massacreが施行される前日、俺と小女は二日ぶりに外へ出て、学校へ行った。
教諭達は授業どころじゃない、といった風で、ほとんどが自習という名の自由時間。
言うまでもないと思うが、少なくともこの都市の小中高等部生徒の間では『massacre』の話題でもちきりだった。
"死んじゃうのかな""怖い"など、話の大半は恐怖に対するもの。
だが一つだけ、恐怖の感情に支配されず、massacreの話をする、異様な雰囲気のクラスがあった。
「――噂では、一部の大人は政府に保護されて、それ以外の大人と政府の軍人が子供を消しにくるらしいのよ」
「一部?」
「病人とか、お年寄りとかその辺みたい。でもよっぽどの事が無い限りは強制参加みたい」
「へぇ……」
我が特進クラスの長、委員長の伏見 奏[フシミ・カナデ]は、俺の質問に丁寧に答えてくれた。
「強制参加って、やっぱり大人が子供を直接殺しにかかるのか?」
「うん、銃器が配布されるみたいよ。素人でも扱える小振りで軽いもの」
「だったら……少なくともこのクラスの連中だったら一発や二発だったら大丈夫そうだな」
「いくら私たちでも急所にあたれば致命傷よ」
平気なのは柏木くんだけじゃない?と、委員長はクスクス笑ってそう続けた。
「葵が人の心配するなんて珍しーねっ」
俺を椅子にしていた小女が、委員長とは逆に小悪魔っぽく笑う。
「なんだよ、仲間の心配して悪ィかよ」
「べっつにぃー。それにしても、"仲間"ねぇ……ふーん」
「なんだよ……その意味ありげな顔は」
俺の問いに、小女は含み笑いで応えた。