どこかいつも

心が傾(かし)いでいる気がしていたが

いつだったか

母が彼を散歩に誘い妙に穏やかな雰囲気で帰ってきた
ことがあった。

そのとき玄関先で私に

“結婚……

   してみたらいいんじゃないの?”

と 少し無理をした笑顔で

言ったんだ。



その時彼はとても深刻な顔をしていたから


どうしたか尋ねたけど

「いや、寒かっただけだよ」

と たぶん

うまくなあなあにされたんだと思う。