「全く……酷い仕打ちよね……
とんだ散歩だわ……」
艶のなくなった長い前髪をかきあげ、
夫人は業と肩で風を切って歩いた。
華子とは違い、ヒールを強調し、病室まで闊歩し
優しく扉を開けた。
「さあ!あなたの大好きな大福よ?
豆大福!」
枕元に置いておいたものを手に取り、夫の目の前を低空飛行させてみせたが
あっという間に夫人の少女の様な笑顔は消え去った。
夫人は、夫の枯れた唇をひと撫でし
頬を何度も撫でた。
「……何も言わないのね……あなた……
昔とは少し変わったわね……」
そらの前とでは違った
“おんな”の声だ。