廊下から足を踏み鳴らす音が聞こえる。





病室の患者に晩御飯の配膳をしているのだろう、


がやがやしていた。






そらは大分落ち着き、

淳一郎に自分が倒れたせいで

婦長にまた迷惑をかけたことが心配だとぼやいた。






「平気ですよ。

 婦長には僕から言ってあります

 



 それにちょっと・・・わけありですから」






「なに?わけありって」






そらが間抜けた顔で聞き返し



淳一郎のあたたかい笑顔が垣間見えたが




さらりと話をすり替えられた。







「そうそう、

 そら?僕は君に隠していたことがある」







そらは突然石になったみたいに“隠し事”の言葉に過剰反応した。





“わけあり” のことなんて

どこか遠くにすっとんでいった。



淳一郎はまた感情が昂(たかぶ)りそうな

彼女の手を優しくさすった。






「僕はね、お義母さんの昔を

   少しばかり知っていたんです」





そらは顔に水風船でも投げられたようだった。



「どういうこと?」

淳一郎を非難した。