階段を下りると、母親が、今度は廊下側のドアから顔を出していた。



「ちさとちゃん、」


「うんそう、それでちさとが発作起こしたのかと勘違いして慌ててたら、ソファに牛乳こぼしちゃってさ」



庭で話した事に追記を加えた。


すると、母親が「紛らわしいこと言わないでよ」と胸を撫で下ろす。



「そうよね、夜中帰ってきた時、ちさとちゃん元気だったもの」


「……。
でも微熱はあるみたいだから、今日は休ませてあげて」



曖昧な笑みを向ける僕に、母親は了解する。



そうして、行ってきますの挨拶をし、早歩きで玄関を出た。



真っ青な空の下、風を切って歩くのに、気持ちは全然晴れやかじゃない。


早足で軽やかな雰囲気を演じてみるけど、心には思い鉛がぶら下げられている。



それをかき消すように歩みを更に速めても、苛々とやるせなさが募る一方だ。




どうして、どうして、どうして、僕は。


どうして、どうして。



その言葉ばかりが、頭の中をこだまする。