「そこ以外じゃだめー」とちさとは音の出ない口笛を吹きながら、向こう側を向いてしまう。



………………。



………まぁ、見る………だけなら。



「…………わかっ、た」


「いやなの!?」



ちさとが物凄い勢いで振り返る。


瞳の奥には、熱いものがゆらめいている。少し怖い。



「いや、そんな事ないよ。
僕は道がわからないから大丈夫かな~って、気になっただけで」


「むふふーん、それならダイジョブ♪
ちさとがちゃあんと、わかってます」


そう言って、平たい胸を得意げに張る。


そうかそれなら良かったと、心にもない事が口から出たところで、母親の声が響いた。


その声には怒りの色も含まれており、僕は慌ててちさとの部屋を出ようとする。