不幸中の幸いとは、このことを言うのだろう。



日が傾いた頃に帰宅すると、台所のテーブルの上に母親からの置手紙があった。



今夜は友人たちと食事へ行くので、自分らの分は冷蔵庫にある物でテキトーにこしらえろという内容だ。


それから寝る前の戸締りも忘れるな、と。



我が家は父親の帰宅が真夜中なので、それを待たずに戸締りを完了させるのが日課なのだった。



置手紙を読み終えると、軽く握力をかけ、ゴミ箱へ投げる。



そして、リビングでブレザーを放り投げ、

ワイシャツは着たままにして、下のズボンだけジャージに履き替える。



脱衣所でバスタオル一枚と、小さめのタオル一枚、

それからシャンプーとリンスを調達すると、縁側から庭に出た。



今まで庭なんかこれっぽちも興味はなかったけれど、

道路に面していないこととか、高い塀で玄関まで覆われていることが、

いかに素晴らしいことか思い知った。



この光景を近所の人に見られたら、間違いなく僕は変態扱いされるだろうからね。


塀があるかないかで、僕の社会的地位が激しく上下するというわけだ。


考えただけでも恐ろしい。