「伯方 まりを連れて来たよ」


 イオが興信所に1人で入って来た。

 界は急いで駆け寄ろうとしたが、入口に立つイオの、手を突き出す動作で制止させられてしまう。


「まりは!?」


「会う前に1つ約束して。黒菱 界。まりが……、彼女がどんな姿でも、受け止めるって」


 「どういう意味だ?」 と聞き返したかったが、ここまで来たら了承する他ない。界はゆっくり頷いた。


「どうぞ」


 イオが言うと詠乃が入って来て、興信所のドアを固定した。
次に礼二が車椅子を押して興信所内に現れる。




「パンドラ、やっと君をお兄さんに会わせる事が出来たよ。彼が黒菱 界だよ」


 イオは跪いて車椅子に乗る女性に話し掛けた。

そう。彼女は以前、界が公園で出会った“老婆”だった。



 界は意味が解らず口が半開きになっている。

 シワが刻まれ、コケた顔。窪んだ瞳、灰色で、縮れてしまった頭髪――。
そこに何ひとつ、妹、まりの特徴は見当たらなかった。


「これは『HEMLOCK』の過剰摂取による副作用なんだ。
『HEM』を過剰摂取しても死なないパンドラ……いや、まりは、副作用で急速な老化現象が起こった。
『HEM』の被験者には、こういった、何らかの副作用が出るんだ」