女はアポロンの顔がベースになっている幾つものモンタージュ写真をまとめて握り潰した。
 その中の1つに城戸 勇によく似たモンタージュがあった。


『しかもその「黒菱探偵社」ですが、調べた所、アレスとアテナの息子、伯方 界が養子に迎えられた黒菱の者の会社です』

『アレス、アテナ……の』


 その名を聞いて女の表情が強張る。そしてしばらく何かを考え込んでいた。


『アポロンは今その会社に居るの?』

『城戸 勇の名で社長秘書をやっていたみたいですが、今は記録が抹消されていました。突然の事のようで、社員も戸惑っておりました』

『“じゃあ”、彼は行動を次に移した訳ね。恐らく彼の狙いは“黒菱”よ』

『アポロンはアレス、アテナと関係が?』


 運転席のガードマン、エミリオが尋ねると、アルテミスは憎々しげな目つきと嘲笑的な口元で小さく笑った。


『そうじゃないわ。もっとくだらない理由よ。アンタ達は知らなくていいわ。
それより、そのアレスの息子、伯方――いえ、黒菱 界を徹底的に調べて。恐らくその男の元に“アフロディーテ”が居るわ』

『アフロディーテ? 幹部のコードですか?』

『……被験者よ』



 その言葉に3人のガードマンは顔を見合わせ、納得した様だった。


『アフロディーテ――。14年間不在だった、たかが被験者の女。アポロンはその女を探す為に日本に行ったのよ……』


 アルテミスの顔はまるで憎悪によって歪められた鬼神の様に禍々しかった。


『私は認めないわ』