『アルテミス様』
『何?』
黒張りの車の中。ガードマン風の男、カインが後部座席の女性に話しかけた。
『総帥からお電話です』
『繋がないで。切りなさい』
『しかし……っ』
女は軽く舌打ちすると、カインから携帯を取り上げ、電源ボタンを潰す勢いで長押しした。携帯の電源は落ちてしまった。
『よろしいのですか?』
『口答えしないで。それよりアポロンはどうなっているのよ!?』
女の声をかき消すように慌ただしい音を立てて助手席のドアが開けられた。外からもう1人のガードマン、シドが息を切らしてやって来た。
『レイイン様!!』
『コード!』
女の怒鳴り声で、顔に掛かっていた彼女のこげ茶の横髪が揺れた。
『申し訳ありません、アルテミス様!
しかしっ、アポロンの居場所が特定されました!』
『なんっ、ですって!? 何処なの!?』
アルテミスは後部座席から身を乗り出した。
『新宿公園付近で変装した姿で「黒菱探偵社」に向かう所の目撃情報がとれました!』
『やっぱり変装していたか。モンタージュ写真の聞き込みは効果があったみたいね』