イオの話はまるで、残酷なグリム童話かの様に界には思えた。
現実味も実感もわかない昔話。

 界はこの感覚を味わうのは2度目だった。
家に帰り、両親の死体が転がっているのを目の当たりにした時のそれだった。


 ふと、左手の何かの感触に気付く。
 盟が界の手を握っていた。

 “界の手に縋っていた”とする方が正しいかも知れない。盟は俯き、何を見ているのか分からない目をしている。

彼女の震えは、握られた手を通して界にも伝わってきた。


 界は目眩に耐えて口を開いた。


「その話が本当なら……、まりは、あの日連れ去られて以来、
紅龍會でずっと……

被験者にされているのか?」


「そうだよ」


 イオの声は少し掠れていた。




「14年間ずっと、……君の両親が殺された日に攫われてからずっと。彼女は組織に捕らわれてるよ」





 界は右手で顔を覆って黙り込んでしまった。
 透と泉は今更、自分達が酷く場違いな所に居る気がしてならなかった。界と盟を助けてやりたくても、自分達は全くの蚊帳の外だ。

 彼らの悲しみと絶望を自分達も請け負う事など出来るのだろうか? どんな言葉も今の2人には気休めにもならないだろう。