全員が感じた疑問を透が口にする。

 その時泉は以前、辞書で調べた『HEMLOCK』の意味を思い出していた。

――『ドクゼリ』。



「よく知ってるよ。呈朝会にも、鞠 あさみにも『HEM』を勧めたのは俺だからね」


 組織を裏切った男が、何の為にそんな事を!? と盟はイオを見たが、逆に見つめ返された。

(まさかこの男は私に会う為だけに……?)


「伯方 栄太が連れ去ったメイについて知るには、生き残りの伯方 界が養子に入った黒菱家に近づく必要があった。
その為に俺は組織から盗んだ薬をバラまいたんだ。君達の目に付くように。
まさかメイも黒菱の養子に入ってたなんて予想外だったけど」

「それはいい。なんでアレが毒薬なんだ? 誰も死んでねぇぞ」

「『HEMLOCK』は画期的な“新薬”だよ。
アレは一定の量までなら麻薬と同じ効果しか持たない。――ヘロインと似た効果が得られる。但し、依存性がない。
しかも、一度の摂取量が一定量を超えると、毒薬の効果を発揮するんだ。しかも、毒物反応を残さずに。だ。
殺し屋やヤクザが欲しがりそうな、まさに画期的でしょ?」


「毒物反応を残さない? そんな事、不可能だ!」

「んー。どういう理屈かは俺はよく知らないけど。だったら試してみたら?」