母と父は同じ仕事場で働いていたらしいが、母は毎日帰って来てはいた。
2人がどんな仕事をしているのか尋ねた事もあったが、教えてはくれなかった。

 また、追求すべきでないと、兄妹は暗黙の内に納得していた。


 きっと日本に行ってもそんな生活だろう。そんな風に界は考えていた。








 日本に着くや否や、父はメイを連れて何処かに向かってしまった。

 界とまりは母に連れられ、新しい住処となるアパートに行った。
今までの家と比べものにならないくらい、狭くて質素な家だ。


 界もまりも、新しい環境にすぐ溶け込んだ。
立ち並ぶ高層ビルも、ひしめく住宅街も、綺麗な道路も、すぐ彼らの日常になった。

 父は今までと違い、スーツを着て仕事に出掛ける様になったし、母も近所のスーパーでレジ打ちのパートを始めた。


 何より、今までと違うのは、夜になると家族が揃う事だった。


 それは当たり前の様で、兄妹にとって奇跡の様な幸せだったのだ。
穏やかな時間に呑まれ、次第にあれから行方の知れないメイの事は頭から離れていった。そんな頃。



“あの事件”が起きてしまったのである。