塾の春期講習に行く途中、家のそばの小さな公園で。


バスケの練習をしている男の子は、深見さんちの弟くん。


彼はバスケをやっていたのか、とてもきれいなフォーム。


そして、シュートは百発百中――。


塾に行かなければならないことも忘れて、しばらく彼に見とれてしまった。



次の日も、彼は公園でバスケの練習をしていた。



さらに次の日、家を出る直前、ふと彼のことを思い出して。


自分でもなぜかわからないまま、赤い絵の具を手にしていた。


公園で彼の姿を見つけると、私は右手に絵の具を絞り出した。


「――深見さんちの子でしょ?」


思い切って声をかけると、彼はゆっくりと振り返った。


「私、隣りの家の、神崎愛」


自己紹介をして、


「私も小6なの。――よろしくね」


絵の具が見えないように気をつけながら右手を出したけど、彼は私の笑顔に見とれていて私の赤い指には全然気づかなかった。