「お母さんと繁之さん、付き合っていたの。

でも、彼は、大企業の跡取り息子だったから、
企業同士の繋がりのため、決められた婚約者がいたの。

陽介を身篭ったとわかった時、結婚しようと言ってくれたんだけどね、
彼の母親が、それを許さなかった。

当時、勤めていた保育園も圧力で辞めさせられて、
住んでた街も追いやられてね・・・

でも、彼の父親、幸造氏は、私に好意的でね、
内密に、住む所も就職も、経済的なことは援助してくれて、
そのお陰で私たちは生きてこられたの。

だから、今回のことは、陽介には迷惑な話かもしれないけど、
一度だけでもあなたのおじい様に会ってあげて。」


そう言って、俺の目の前に来て、俺の手を握る母。


「ゴメンね、陽介、イヤな役目押し付けるような形で・・・」


握った俺の手に、ポツリと母の涙が零れた。


そんな姿の母さんを見下ろしながら、
改めて、小さくなったと感じた母の背を擦った。


「わかった。明日、ちゃんとジイさんに会う。

悔しいけど、ジイさんのお陰で俺も母さんも救われたんだからさ・・・」


ありがとね、と、小さな声で呟く母の背を何度も何度も擦った。