「そう、良いお母さんなのね。私も見習わないと。」

そう微笑んで、彼女は自分の傘を傘入れから取り出した。

雄介のものと同じ、青色の傘だ。

「じゃあね、お疲れさま。」

去っていく後ろ髪から、甘い香水の香りが漂っていく。

立ちすくしたまま雄介は、その姿にしばし見とれていた…。


次の日も、また雨だった。

梅雨であるから仕方がないとはいえ、こうも降られては気持ちが滅入る。

電車に揺られながら、しかし雄介は少しばかり浮かれていた。

「…早織さんか。可愛い子だよな。」

ニヤニヤしながら、頭の中は昨日出会った早織のことでいっぱいだった。

…思えば毎日営業に追われ、職場の同僚など気にもしていなかった。

家が遠いのを理由に、飲み会などを断っていたから尚更である。

「彼氏はいるのかな。まさか結婚してるとか?。」

そんなことに思いを巡らしながら、またいつものようにエレベーターに乗り込む。

事務所のドアを開ければ、その奥に制服を着た早織が座っていた。

「やあ、おはよう。」

笑いかけると、早織もニコリと笑い返す。

「おはようございます。」

その笑顔は可愛らしく、そして明るかった。