何分かした後で、保健室のドアが、ガラガラと開いた。

「こんにちわ――」

保健師が隣で頭を下げた。

右肩から垂れたウェーブのかかった髪を押さえ、

「先生、ご迷惑をかけてすみません」

と女性は会釈した。

次いで私に向き直った。

「ごめんなさいね」とお姉さんにそっくりな貴の母親。

否、厳密に言うとお姉さんが母親に似ているんだけど。

「全然……良いんです」

私は胸の高鳴りを抑え、なるたけ平静を装って応えた。

淡い花柄のニットとロングスカートを履いて、小綺麗な母親は、家に帰らせますからと保健師に言った。

貴を起こして立たせ、頭を静かに下げ保健室を後にした。

イスに座っている保健師が、付き合ったのね? と弁当片手に訊ねてくる。

ウン、そうと答えると、保健師は大きくうなずいて、赤いタコさんウィンナーを口に放りこんだ。

「あの銀髪が好きなんだよね」

私が保健室を出るのにドアに手をかけ振り返りつぶやくと、

「変わってるのねぇ。でも彼は悪い人じゃなさそうだし、お母さんも優しそうね」

保健師が鞄から何やら取り出した。

見ると、そこにはゲーム機が音を鳴らして始まっていた。