『まだ怒ってるの?』


明希は布団の中に潜ったまま顔も見せてくれない。


『リンゴ食べない?』


「―――…っ、」


『明希?』


「こっち、来て」


静かな声。


布団が喋っているかのような、ちょっと奇妙な光景。


『あーきっ?』


あたしがゆっくり布団をめくろうとしたとき、明希が勢い良く起きた。


「結衣…、」


『えっ…!』


―聞き間違い?


「結衣…、結衣…」


腰にしがみついて来て、虚ろに名前を呟き始めた明希。


唾液が上手く喉を通らなくて少し痛い。


「やだ…側にいないと…。もう何もっ…忘れたく無いっ…」


『明希…、』


明希を抱き締めて、しばらく頭を撫でていると静かに寝息が聞こえ始めた。


『変な体制で寝たら身体おかしくなるよ?』


あたしは明希の黒い髪を指の間にするすると通して遊んだ。


今はもう、あたしと明希の髪の色は同じじゃなくなった。


『明希がたまに思い出して呼んでる“結衣”は、あたしなんだけどなぁ〜…』


夕暮れの日が照らす病室は、少し暖かいような少し寒いような。


絡み付いた気持ちを凄く穏やかにしていく。