『お兄ちゃんね、本気じゃないって。泣かない泣かない』


あたしはサクラちゃんの前にしゃがみ込み、手でそっと涙を拭いた。


「お姉ちゃん、毎日病院に来てるの知ってた…」


『え?』


「お姉ちゃんが毎日誰かのお見舞いに来てるの見てたの。アキ兄ちゃんのだったのも気付いてたよ…」


『そ、なんだ』


明希は苦虫を噛み潰したような顔をした後に、壁を蹴って病棟に戻ってしまった。


こそこそと女子同士でクラスの男子の悪口言ったような気分。


『サクラちゃんも戻ろうか。風邪でも移ったら大変だから』


「…一緒にいるの辛くない?」


『どうして?』


「前に、アキ兄ちゃん言ってた。兄ちゃんは、お姉ちゃんのこと忘れていく病気って。だから」


『辛いけど、なあ〜んか側に居たいんだよね』


「アキ兄ちゃんも似たようなこと言ってた」


『なんて言ってたの?』


あたしの守りたい人は―


「忘れてくからいっぱい傷付けちゃうけど…でも、お姉ちゃんに側に居て欲しいって」


あたしの事を誰だかわからなくなっていた。


『そっか』


あんな堂々と陸斗に宣言したのに恥ずかしいや。